第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
丁度、ラトとミヤジの演奏が終わる頃だった。多くの拍手の元、無事にラトとミヤジは素晴らしい余興を務めて見せた。
そうして始まる、一曲目の始まりと共に仕来りに則り恭しく私をダンスへと誘う目の前の美丈夫に柔らかく笑って見せた。差し出される手に、出来る限りの美しい所作で私のそれを重ねるのだ。
ダンスのステップに合わせ、その伸ばされた赤髪が靡いて美しいなとも思うのだが、今の私に悠長にその様な事を考えていられる余裕はない。
間違えないように、美しく見えるようにと必死である。
そんな私の様子に気が付いてか、頭上でクスリと笑い声がした。
「顔が堅いぞ、悪魔執事の主よ。もう少し楽しそうにして見せてはどうだ。」
「、が、頑張ります……。」
流石はグロバナー家当主、動きにばかり集中して顔が強張る私と違い、こんなもの造作もないとでも言いたげな程に余裕の表情だ。
しかし、緊張するなというのが無理な話で、今踊っているのは私とフィンレイ様の二人だけ。ここにいる全ての人の視線を受けるその緊張たるや、今にも脚が笑い始めてしまいそうだった。
はて、最初はこんなにも大仕事になるだなんて聞いていなかったぞと今更になって悪態を吐きたくなったが、それも今日という日が終われば幾らでも叫ぶことが出来るであろう。
しかし、段々とこの空気にも慣れてくれば踊りながらも、ちらと視線を泳がせてしまう。
「……先程から、落ち着きがないな。」
「え?」
まさか、バレていたとは。
鋭い視線にドキリと冷や汗をかきながら、素直に非礼を詫びる。
「まぁ、よい。…あの悪魔執事達をここまで手懐けた事、素直に敬意を払おう。」
此方を見る誰もが、私達がそんな言葉を交わしているであろう事など、分からない程の態度でフィンレイ様は言う。
何かその言葉の裏に隠された意味があるのだろうかと勘繰ったが、私には良く分からなかった。ただ、時折静かな視線が私へと向けられていたのだけが気掛かりだった。