第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
さて、そうしている間にもこのホール担当の執事達が集まってきた。穏やかに、臆することは何もないとでも言いたげに落ち着き払ったルカスが私の隣に立つと、何時もの愛想の良い笑顔をくれた。
そうして、外で出迎えを担当している執事が扉を開けば、私を先頭に現れた招待客を迎える。
一人、また一人と妙に訝しげな、そしてふてぶてしい面の貴族達にこの強引に貼り付けた笑顔を向た。あたかも貴殿方の御来会を今か今かとお待ち申し上げておりましたとでもいうかのように。
そして概ね招待客の数が揃ってきたかという時、一際凛とした佇まいの男が現れた。
フィンレイ・グロバナー
漆黒に身を包み、上質なハットを脇に控えた執事に手渡せばその黒く澄んだ瞳が真っ直ぐに向けられた。
「ようこそ、お待ち申し上げておりました、フィンレイ様。このような場所へフィンレイ様自ら御越し頂けましたこと、誠に感謝致します。」
「ああ、本日はお招き頂き感謝する、悪魔執事の主よ。……今宵、我らにとって良き日になるよう、願っているよ。」
能う限りの礼を持って腰を折れば、満足気な相槌が返ってきた。
そうして彼を奥まで案内すると共に、下らない貴族達の相手をこなす。社交辞令に混ぜられた悪意と誹謗に、貼り付けたニコニコとした笑顔と合わせ、時に心苦しいと、我らの非礼を許して欲しいと眉を落とす。
決して心穏やかな時間では無いが、今こうして立っていられるのは隣でごく自然に巧みな話術を披露して見せているルカスのお陰だろうか。
ひとしきり悪態を並べ立てては、その日頃の身の無いストレスの発散に満足したのか、上機嫌で去っていく脂ぎった耄碌爺の背中を二人笑顔で見送った。
「はぁ、ありがとうルカス……私一人では絶対に無理だった。」
「いえいえ、とても御立派でしたよ、主様。私はほんの少し、力添えをしただけですので。」
心の底から出たかのようなため息を、このホールの床に静かに落とした。
会場を見渡すと、他の皆も上手くやってくれているようだ。
私は、皆の仕事振りを確認するようにして、端から端まで目を配った。