第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
グッと気持ちを引き締めると、変わらず両手を広げて褒め称えてくる彼らにありがとうと、この場最後の感謝を込めた。いつまでもそうしていたいのは山々なのだが、時間は刻一刻と近付いてくる。
では、と声高々に、今日という日を完璧なものにすべく彼らに発破をかければ、きりりと表情を変えさせる。皆、すぐにもさっと切り替えて部屋を出ると各々リーダーの指示の元、持ち場へと戻っていった。
あぁ、素晴らしい。その毅然とした彼らの態度に惚れ惚れしながら、その立役者に想いを寄せる。
私は会場準備が調ったのを確認にホールへと降りた。ボスキが全体の最終確認を行っている最中だ。その目は真剣そのもの。花の向き一つ狂わせはしないとホールをくまなくチェックしていた。
「お疲れ様、ボスキ。流石、今日も一段と気合い入ってるね。すごく素敵。」
「ん?あぁ、主様か……勿論、当たり前だろ?俺を誰だと思ってる。あとは、そうだな…。」
労いの言葉を手に我が屋敷の専属コーディネーターへと声を掛ける。丁度全ての確認が終わったのか、ボスキは自信たっぷりに言うと、私を見てニヤリと笑った。
「ここにある、とびきりの華を添えてやれば完璧だ。やっぱり、フルーレに予め主様のドレスを確認しておいて正解だったな。」
「はな?」
そんなに特別なお花を用意していたのかと周りを見るが、何もない。
「おいおい、まさか言わせんのかよ……主様、アンタの事だぜ?」
私を指差すと誇らしげに頷いて見せたボスキは、小さな悪態を付きながらもその表情はあまりにも得意気で、ニヤリと怪しく笑って見せた。
ドレスも、この会場にも良く似合っていると、珍しく手放しの褒め言葉を受け取る。まさかボスキからそんな言葉が聞けるだなんて思っていなかった私は少し驚いて、そして少し笑えてきた。
同時に、そんなところまで気にしてこの会場を手掛けたのかと感心もする。この会場デザインは全て私のドレスに合わせ、より際立たせるよう、美しく映えるように設計したらしい。流石はボスキだ。
「今日はグロバナー家が俺達、悪魔執事を手懐けてるのを口うるせぇ貴族達に見せしめる為のもんだろ?アンタを目立たせなくてどうする。」
そう、だから今回は前回のような珍事は許されない。
今日まで教育係による指導を叩き込まれて来た執事達の誰しもが、その事を理解している筈である。