第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
騒がしくも、けれどまるで幼い頃に見たアニメーション映画の魔法のように、私自身が着飾られていく。
そうしてエスコートのように差し出された手に、気恥ずかしさと喜びとを乗せて手に取った。ふわりと香るバラの香りを花咲かせるかのように立ち上がれば、すぐに出来た執事が椅子を引く。ここにいる彼らの視線を一身に受け、私はその場でくるりと回って見せた。
ふわりと波打つドレスの裾がこの部屋を一瞬にして煌びやかなダンスフロアへと変えさせる。
ほう、と感嘆の溜め息や、歓声が上がった。
「やっぱり、俺の主様は最高だな…。」
「アンタのじゃ無いっすからねぇー。でも、主様が最高に綺麗だってのは手放しで同意っす。」
「いや、本当に……綺麗だな。」
私の手を取ったハウレスが、少し顔を赤らめて視線を逸らす。
まったく、皆して私を持ち上げるスキルが高すぎて困ってしまう。
「主様、靴のサイズは大丈夫ですか?どこか当たるところがあればすぐに補正致しますよ。」
「ありがとう、フルーレ。大丈夫、どこも当たらない。完璧だよ。」
「うわぁ、主様すごいです!本当のお姫様みたいです!!」
ぴょんぴょんと興奮気味に跳び跳ねる黒猫に、にこりと笑ってお礼を言った。
騒がしく、面白おかしく進んでいく今日という日に、黒猫へ向けた笑顔と出来るだけ同じものを、この完璧に着飾られた私に張り付ける。
大丈夫、大丈夫、いつもと変わらない私で居られている。
皆何も言わない、その違和感に私も気が付かないフリをした。だから変わらない笑顔を保とうと、出来る限り皆の笑顔に目を向けようとする。
止まらない称賛を、恥ずかしさと共に受け止めながら、堪えたものに耐えるように、この胸に刺さった小さな棘を隠すかのように目を伏せる。
しかし、本来ならばこの場所で、誰よりも近いその場所で、私の着飾ったこの姿を嬉しそうに誉めてくれる、その人が、いない。
誰よりも、何よりも一番に見て欲しい、貴方がいない。
漏れそうになる、この切ない溜め息をぐっと飲み込んで再び顔を上げた。
今日の為に皆頑張ってくれたんだから、こんなことで私一人落ち込んでいるわけにはいかないのだ。