第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
「主様。髪型だが、サイドの流す量このくらいでいいか?」
「主様~!ブレスレットはこれに致しましょう!ボクとルカス様で選んだんですよ!」
「主様、本日お召しになる香水ですが、幾つか主様が好きそうなのをご用意させて頂きまして……如何致しましょう?」
「主様、華やかにするために今日はリップにも少しだけラメを入れました。あ、ハナマルさんちょっとどいて!今から最後のハイライト入れるから、ハナマルさんの影で見えないよ!」
今日は、舞踏会当日。
それはこの屋敷、デビルスパレスで行われるのである。
皆、自分の仕事で大変だろうに、あれやこれやと気が付けば私の周りを取り囲む執事達に申し訳なくなりつつ、まるで舞台女優かのような扱いに胸が踊る。
「主様、今日のドレスにピッタリの色のバラ、摘んできました。これを耳元に飾れば、会場の誰よりも主様が輝けるハズっすよ!」
まぁ、こんなもの無くても、主様が一番綺麗っすけどね。
相変わらずキザったらしく誉め立てるアモンに、クスクスと笑いながら、ありがとう、と受け取ってその香りを楽しんでからハナマルへと手渡す。
ハウレスが差し出すムエットに鼻を寄せ、先程嗅いだバラの邪魔をしないよう、いつもより少しだけ甘めの香りを選べば首筋へと振り掛けその香気をこの身に纏わせる。
「主様、あの……手を出してください。……この繊細なレースのグローブが、一目見た時から主様に合うと思っていたんです。」
跪いたフェネスが、その目を少し恥ずかしそうに伏せながら肘まであるグローブを丁寧に付けてくれた。
「ほらよ、完成だ。はは、役得だな……主様、今最高に良い女だぜ?」
「ちょっと、ハナマルさん!?何してるんすか!流石にそれは許されないっすよ!!」
「え、ずるーい!ボクも主様にちゅってしたい!!」
「やめなさい、ラムリ!貴方は会場準備の途中でしょうが!まったく、どこに逃げたかと思えば……」
はぁ?うっざ!と、いつものラムリの悪態を聞きながら引きずられていく背中にありがとね、と声を掛ける。
「おっと、丁度良いタイミングだったみたいだね……主様、私からはこれを……」
最後の仕上げだと、キラキラとプリズムを瞬かせた、私には勿体無い程のネックレスが少しだけ寂しかった胸元を飾った。
揃いのピアスを耳元に通せば、満足気な私の主治医が目の前で笑う。