第2章 それは請い願った帰り花
「あ、あのっ、ごめん、…断ったんだけど、その……っ」
ギシリと、一人分の成人男性の体重を支えようとスプリングが鳴る。
「遠慮は無用でございます。さぁ、どこですか?主様。」
目の前に、あんなにも意識してやまない、その人がいるというのに、この状況はあんまりではないか。
完全にベッドに乗り上げたべリアンが、私を跨ぐようにして迫る。
吐息すらも届きそうなこの距離で、私は呼吸の仕方さえも忘れてしまいそうだった。
べリアンの手が、内腿に触れた。手袋越しに感じられる、その大きな手に息を吞んだ。撫でられるその感覚に、体の熱が一気に上がるのを感じる。先程、マッサージを受けていた比ではない羞恥心が私に襲い掛かる。
「……ひっ、…っ、」
「……主様、言ってくださらなければ分かりません。」
思わず、変な声が出そうになるのをぐっと堪える。駄目だ、今この空気に飲まれてしまうのだけは、絶対に駄目だ。
これ以上は確実に超えてはいけない一線を越えてしまうと、咄嗟にべリアンの手をおさえようとしたら逆に捕まれてしまった。
「何故ですか?ラトくんには、大人しく触らせていたではありませんか。」
「ち、ちが!そんなじゃ……」
「違うのですか?では何故?私ですら、触れたことが無かったというのに……こんなところ、まさか私より先に触れさせるだなんて……。あぁ、でも主様……キレイです、本当に……」
スカートをゆっくり捲り上げていく。するすると滑る、滑らかな布の感覚にゾクリと肌が震えた。あの時べリアンに抱き締められた、転んで抱き留められた、その時と、同じ香りが私の目の前にいっぱいに広がる。
「べ、べリアン……やめ、て…」
ゆっくりと滑る指先が、押し上げるスカートの中に潜る。内腿のその際どい位置に指先が触れた瞬間、咄嗟に私はベリアンを押し退けていた。こんなにも力があったのかと思うくらいだったが、羞恥なのか恐怖なのか、またはその双方からか。しかし考えるよりも先に体が動いた。
目の前には、ハッとした表情で我に返ったかのような表情を浮かべるベリアンがいて、見る見るうちにその顔は青ざめていく。
「……っあ、主様、申し訳……」
私はその言葉を聞き終わる前に、脱いだルームシューズも置き去りに部屋を飛び出していた。