第2章 それは請い願った帰り花
きっとミヤジやべリアンがラトがまじめに指導を受ける為の口実として私の名前を出したのだろう。勿論、私の名前を出すことでラトや皆がいい方向に向かうのであればいくらでも使ってくれて構わないし、実際にラトが今度の舞踏会で揉め事なくちゃんとしてくれたならば私はこの上なく嬉しく思う。
「くふふ、そうですか。それを聞いて、ますますやる気が出て来ました。やはり、人伝いでなく、主様の言葉を直接聞くと違いますね。」
嬉しそうなラトに、思わず私も笑みがこぼれる。確かに怖いかもしれないと思うところはあるのだが、それでも私に対する丁寧な対応と、皆と同じように執事として振舞おうとしてくれているその姿がとても微笑ましい。
「ねぇ、主様。舞踏会までもうあと二日ですね。良ければ、私も主様にマッサージしてさしあげましょうか。」
「……、え?」
まさか、そう来たか。
恐らく、というか間違いなくさっきのべリアンが私にやっていたのを見て、自分もやってあげたいと、そう思ったのだろう。なのでこれはラトの善意100%の言葉である。下心なんてものはきっと彼は持ち合わせてはいない人だ。
しかしながら、だからこそ、断りにくい。べリアンにやってもらっていた手前、どうして自分は拒絶するのかなどと言われて、大切な舞踏会前にラトのメンタルを刺激したくはない。
どうしたものかと悩んでいれば、もう完全にその気でいるラトが目の前に迫っている。
「いや、でもそんなことラトにさせるのは……」
「大丈夫ですよ。私は大切な主様を壊したりなんてしません。それに、マッサージなら、ミヤジ先生に教わっているのですよ。たまに、衣装作りで疲れたフルーレにやってあげてますし。」
いい兄でしょう?と得意げなラトに、これは完全に逃げ道を封じられてしまったと頭を抱えた。
仕方ない、こうなれば軽く頼んで、手短に終わらせてもらうしかない。