第2章 それは請い願った帰り花
「ベリアン、ごめんね……忙しいのに、こんなことまでさせちゃって…。」
「何を仰いますか。私は主様のお役に立てることが何よりの幸せなのだと、何度も申し上げているではありませんか。だから、こうして主様のお側に支えられる、この時間が今の私の一番の楽しみなのですよ。」
そうして、やはり嬉しそうに笑うべリアンは、丁寧に、ゆっくりと私の足を撫でていく。アキレス腱から、脹脛、膝の裏までを痛くない丁度いい力加減で指圧される。
心地いい。けれど、それ以上に、やはり触れられているということにどうしてもドキドキしてしまうのだ。早く終わって欲しい反面、ずっとこうしていたいような、そんなむず痒い心地だ。
いつものあの優しい声で、幸せだと、そういうべリアンが不意に少し言葉を濁した。どうしたのかと聞くと視線を逸らされる。
「いえ、その……何と言いますか、主様……私以外の執事には、こういうことはさせないで下さいね。」
「……え?」
言い辛そうに、途切れ途切れで紡がれた言葉は、丁度その時開かれた扉の音により私は上手く聞き取ることが出来なかった。
「おや、ベリアンさん。こちらにいらしたのですね。何をしてるんですか?」
「ラトくん……ダンスのレッスン後にマッサージして差し上げてるのですよ。」
急に現れたラトに、すぐにいつもの調子に戻ったべリアンが何ともないように説明する。