第2章 それは請い願った帰り花
何度も口から出掛かっては飲み込む、あのレッスン初日にべリアンが言いかけた、言葉の続きの要求が喉につっかえて苦しいのだ。
何で、そんなに何ともないかのように笑っているの。割り切って見せるだなんて顔をしないで欲しい。今以上の関係を望まないと言うのであれば、そんな瞳を私に向けないで欲しい。
愛おしそうな、嬉しそうな、いつもいつも、ずっと前から向けられていたその瞳が、今は少しつらい。
「どうかなされましたか、主様?どこかお辛いのですか?」
ほら、そうやって貴方は私のほんの些細な変化にも気が付いてしまう。
私の気持ちの変化なんて、最初から分かっていたのではないかという気持ちにすらさせられるくらいに。
でも、それに比べて私は、そんなべリアンの本当の気持ちなんて分からない。
「大丈夫、ちょっと疲れちゃったみたい。」
「すみません、そうですよね。本番も近いというのに……もう少し軽いレッスンにしておくべきでした。」
私の何とも雑な言い訳に対して、申し訳なさそうに眉を落とすべリアンにそうじゃないと、単なる本番が近いことへの緊張なのだと、また思ってもない言い訳を重ねる。
彼は、本当のところどう思っているのだろうか。知りたいけど、知りたくない。知るのが怖い。今の関係が崩れてしまうのが、私は怖いのだろう。
「では主様……失礼いたしますね。」
べリアンはそっと、私の足に手を添えると、丁寧にルームシューズを脱がしていく。
とくんとくんと、静かなこの部屋に響くかのような音は、私だけのものなのだろうか。
清潔な手袋で足なんて汚くて触らせられないと断っても、主様に汚いところなど一つもないのだと言い放った。そうして今もまた気にした素振りなく、私の足に触れる。私が汚いからと断れば、この人は今日も同じ言葉で否定してくれるだろうか。
つま先から、丁寧に刺激を与えられていく。溜まっていた疲れが、ゆっくりと溶けていくようだ。
こんなことさせられないと思うのに、その心地よさと、この胸を締め付ける感情が逃げ場を奪っていく。
事の始まりはベリアンに休んでもらいたかっただけなのに、何だか変な方向に拗れてしまった気がする。こんなことになるだなんて、私が一番思っていなかった。本来の、べリアンを休ませるという目的は果たして達成させられているのかと不安になる。
