第1章 それは心からの憂心
「うん、私も、そこまで無理してしてもらいたいとは思わないの。勿論、べリアンが私の事を思ってしてくれることは、全部嬉しいし、本当にありがたいんだけど、それでも、べリアン自身をもっと大切にしてくれることの方が、大事だから。」
「ふふふ、べリアンもそこまで思ってくれる主様だからこそ、もっと役に立ちたいと思うんだろうね……そうやって、主様に気にかけてもらえるべリアンが羨ましいな。」
「え?」
後半、呟くようなルカスの言葉が聞き取れなくて、思わず聞き返したが、大したことじゃないと笑ってはぐらかされた。
「うん、話は分かりました。私も、べリアンにはもう少し肩の荷を下ろしてもらわないとと悩んでいたところなんだ。私に出来ることがあればなんだってするよ。」
何時もの柔らかな笑顔を向けて、思わず頼りたくなってしまうその包容力に、ありがとうと出来る限りの笑顔で応えた。
「あのね、一度、べリアンを私担当から外そうと思ってるの。そうでもしないと、彼、休まなくなっちゃうから。」
「うん、そうだね。でも、突然主様担当から外すのは止めた方がいいかもね。あのべリアンの事だ。何か自分に不備があったのではと今まで以上に思い詰めてしまうかもしれない。」
「そ、そっか……どうしたらいいかな。」
確かに、それはあるかもしれない。さっきも、急な仕事が舞い込んでしまったのが悪いのに、主担当なのに他の仕事で待たせてしまって申し訳ないと、此方が逆に気にしてしまう程に謝られたのだ。
「そうだ、私にいい案があります。今度、舞踏会があるのは知っているね?前回、マナーのなっていない子達が何人か目立ってしまったから、その子達を中心に、一度執事達全体でマナーレッスンを徹底させよう。べリアンはその指導係として役割を担ってもらう。それを理由に、主担当を外させよう。勿論、一時的なものだと伝えれば、べリアンも納得してくれるはずだ。」
確かに、時期的にはピッタリだし無理なこじつけ感もあまり無い。