第1章 それは心からの憂心
「ごめんね、新しい薬の調合をしていたんだ。すぐに片付けるから待っていてね。」
簡単に机に並べられた赤やら白やらの粉と小さなビーカーやらを片付けたルカスが私に向き直った。
急に押し掛けたというのに、快く招いてくれる上に作業まで中断して柔らかな笑顔を向けるこの執事も本当に出来たものである。
「お待たせ致しました。……さて、話は、ベリアンの事だったね?」
「忙しいのに、ありがとう、ルカス。その……さっき、ベリアンがルカスさんに、最近頑張り過ぎだと、身体を壊してしまうと注意をうけたと言っていて……。」
「そうだね。最近のベリアンは、少しやり過ぎだと感じていたから。周りの皆も、少し心配していたんだ。」
「そうだったんだ……。ベリアンは特に私の前では、完璧であろうとするから、私は、ベリアンがどのくらい無理してるのか、さっき聞くまで知らなかったの。そんなにべリアンが私の為に色々してくれているだなんて事も、初めて知って。きっと、ルカスがベリアンに言ってくれなければ、私知らないままだった。」
「いや、私は当たり前のことをしたまでだよ。べリアンも、自分で少し行き過ぎているという事は分かっているんだ。でも、彼の性格上、居ても立っても居られないんだろうね。それが彼のいいところでもあるが、見ているこっちは気が気じゃなくてね。」
確かに、最近のベリアンの仕事振りは本当に凄い。
私が、何か頼もうと視線を動かすその時には既にその視線の先に気が付き、何を言うまでもなく求めるものを差し出してくる。エスパーなのでは?と思うくらいにその時々の私の求めるものを的確に推し当てて見せるのだ。
それがあまりにも心地好くて、思わず甘えてしまっていた私にも問題があるだろう。