第2章 それは請い願った帰り花
初日のダンスレッスンを終えてから二日後。
再び私は3階の練習部屋を訪れていた。否、詳しくは練習部屋の扉の前だ。
前回から、私はまだ一度もベリアンと話していないどころか、顔すら合わせていない。気まずくて、何だか恥ずかしくて、出来ればまだ会いたくないと思ってはいたのだが、まさか本当に会わないとは。
そして今日、またベリアンとマンツーマンのレッスンがある。そう、二人きりだ。
あぁ、こんなことなら隣に誰かいる時に少し話すべきだった。
変な緊張から、そのドアノブを握れないでいる。もじもじと立ち竦む様子は恥ずかしくて友人家のインターフォンを押せないでいる子供さながらである。いや、普通の人はそんな経験無いのかもしれないが、私はある。本来かなりの恥ずかしがりの引っ込み思案なのだから。
しかし、そんなことをしていれば、徐に扉の方から開かれた。
「おや、主様……?」
突然開かれた扉にびっくりするも、同じように驚いた様子のベリアンがそこにいた。
時間になっても私が来ないものだから、何かあったのかと心配して様子を見に行こうとしてくれたらしい。まさかずっと扉の前にいたとも言えず、訳は言わず謝りつつ中へ招き入れられた。
やはりベリアンはこの前の事等全く気にもしていないかというように、淡々と今日のレッスンを進めていく。なんだ、やっぱり私だけなんじゃないかと、ちょっと悔しくなった。
そんな事を考えていたからだろうか、ふとした拍子に脚がもつれた。
あ、やばい。そう思った時にはぐらりと揺れる視界。逆の脚を出そうにも、ダンス用のスカートは長くまとわり言うことをきかない。
「主様…!」
絶対に転んだと思った。視界の端でベリアンが動いた気配はしたが、間に合わないと思った。しかし、彼は私を抱き止めるようにして床に倒れこんだ。