第1章 それは心からの憂心
ある日、何時ものようにデビルスパレスに帰ってきて、何時ものようにベリアンの紅茶を飲んで、やっとゆっくり出来ると一息吐いていた時の事であった。
それは、きっとベリアンにとっては日常会話のひとつであり、然程気にも止めずに口にしたことなのだろう。
だが、私はそれがどうしても気になってしまった。
「え?そんなに?もしかして、寝れてないの?大丈夫なの?ベリアン……。」
「勿論、大丈夫ですよ。ルカスさんはきっと心配して言ってくれているのでしょうが、私は主様のお役に立てることが何よりの幸せで、生き甲斐なのです。だから、主様は気になさらないで下さいね。」
ニコニコといつもの柔らかな笑顔でそう言う私の執事は、先程の頭痛などまるで無かったかのように優雅な動作で二杯目の紅茶の最後の一滴を静かに落とした。
こうして見ていると、確かに疲れているような様子等全く感じさせない完璧な仕事振りを見せる。その中ですら、こうして役に立てるのは本当に嬉しくて堪らないんだと、私の隣に遣えてあれやこれやと気に掛ける様子や表情に一切の曇りはない。寧ろ誰が見てもその後ろ姿にすら幸福感を感じ取る程だ。
しかしだ。ルカスがそこまで真剣にベリアンを心配して注意までしたとなると話は別である。
丁度急な仕事が入ってしまったと嘆くベリアンを置いて、私はルカスの居るであろう医務室へと向かった。
「ごめんね、ルカス……今、時間いいかな?ちょっと話したいことがあって。」
「おやおや、これは主様。主様が直接出向かずとも、言えば私の方から向かったというのに……でも、今回はそう言う訳にもいかなかったのかな?」
「うん……あのね、ベリアンの事で、少し相談があるの。」
「なるほど、そういうことですか。分かった、さあ、中へお入り。」
清潔な、少しだけ薬品の混じった匂いがする部屋に入ると奥の一番良い椅子に案内される。