第1章 プロローグ
昨日は夕飯も食べないで寝てしまったから、今日引越しそばを食べようと買ってきていた。たぶんこうなるとわかっていたから、恵くんの分も。傑さんが教えてくれた出汁の取り方は本当に美味しくて、これが上手にできるようになれば、お嫁に行っても恥ずかしくないと言われていた。今は上手にできるようになってきた。
案外早く恵くんがやって来て、部屋でケータイを触っている。
今までと何も変わらない。
違うのは高専の寮だということだけ。
学校で待ち合わせをして一緒に帰ったりもした。友だちにもよく揶揄われたし、紹介して欲しいと言われたこともあった。恵くんが誰かのものになるのはちょっと嫌だけど、別に恋人になりたいような好きっていう感情ではない。と思う。恋ってもっとビビってきたり、その人のことばかり考えてしまうようなものでしょ?それを言うなら、傑さんの方が恋に近いと思う。助けてくれた人だからだろうか?一緒に過ごしていても好きが溢れてくる感じは、恋なのかな?
でも、あの人は家族だもの、ダメダメ。
明日から学校が始まる。
一応入学式はあるようだけど、新入生は2名だけだし、先生たちとの顔合わせのようなものだ。うち2人は知っている人だし、そんなに緊張していない。
傑さんと悟さんは所謂問題児だったらしく、子どもを引き取ると言った時にはみんなから反対されたらしい。でも、その頃から落ち着いたと。知らなかった一面を知ってなんだか嬉しい気持ちと傑さんの人生を奪ってしまったのかもしれないと不安になった。
恩に報いるためにも強くなって、傑さんの背中を守れるようにしよう。
さぁ、頑張ろう。
強くなるために。