第1章 プロローグ
入学を間近に控え、引越しの準備をしていた。私は寮に入る。傑さんが通っているくらいだから、通える範囲ではあるんだけど、寮の方が都合がいい。早く一人前になりたいから、厳しい環境に身をおきたいし。傑さんと通学するのもいいなと思ったけど、そもそもいつも時間が同じじゃないから、すぐにその考えは捨てた。
引越しを終え、荷物を片付けていたらもう辺りは暗くなり始めていた。でも毎日の日課であるランニングや筋トレをしないと落ち着かない。高専内でランニングするルートを確認しながら歩く。方向音痴な私は今いる場所がわかるように建物を確認しながら進む。今日はウォーキングにしておこう。
しばらく歩いていると正面から歩いてくる人が。
悟さんだ。
『こんばんは』
悟「なんだ楓かぁ〜。ますますキレイになってきたね♡今日入寮したの?恵は明日入るよ」
『そうなんだ。楽しみ♡』
さらっとキレイになったとか言えちゃうとこが大人なんだろうな、傑さんもだし。ん?待てよ?もしかして、学校では夏油先生と呼ばないといけない?
『じゃあ、また明日!恵くんのお部屋教えてね!』
私がまだ子どもの頃、“悟さんと結婚したい”と言ったことがあった。たしか10歳くらいだったかな?割と本気で。
傑「今、なんて言ったの?」
目をまん丸にして聞き返した傑さん。
『だから、悟さんと結婚したいの』
悟「僕の魅力に子どもながらに気がつくの、さすが!わかってるね〜♡」
傑「悟、今は少し黙ってくれ。…なぜそう思ったんだい?」
『え?大好きだから』
傑さんが大切にしてる人だから。毎日一緒にいられるでしょ?
しばらくの沈黙。
この頃、大好きな人と結婚するのが当然だと思っていた。だけど家族とは結婚できないんだってクラスのお友だちから聞いて、傑さんとは結婚できないんだって知って悲しかった。だったら、ずっと家族として側にいて、傑さんが笑って過ごせるようにしたいという思いで、“悟さんと結婚したい”と言ったんだ。そして恵くんも一緒にいられると思って。でも、子どもだったし言葉足らずだったから、勘違いさせた。傑さんは私の初恋を悟さんだと思っている。