第1章 紫の陽だまりを見た日
どうして居酒屋に来たかなんて、私にはどうでもいいことだった。
アルコール強めのお酒を頼んで、扉のない個室のテーブルに座り、向かいにはぼんさんが座った。他の人を呼ばなかったのは、私へのぼんさんなりの気遣いだったのだと思う。
煙っぽい店の中、アルコールを飲んだ勢いで緩んだ私の口は、次第にフラれた経緯を話し始めていた。
「だってさぁ、言うんですよ。女らしくないって」私は元彼氏の言葉を思い出していた。「そういえば前にも言われて。女なのに運転するのかとかって」
車弄りも好きな私は、自分の車も所有していた。いつかどこかのデートの時、車出すよなんて気軽に言った時に、そんなようなこと言われたっけ。今更思い出して悲しくなるなんて、私って本当にダメだなぁ。あんなやつが好きだったなんて。
「ああ、だから車の話したら思い出したのね」
ぼんさんは冷静に私の話相手をしてくれた。手元には水しか置いていないから、素面のようである。
「あ、すみません、私ばっか飲んでて。何か頼みますよ」
自分で言うのもなんだが、私は酒には強い。ふと立場の違いを思い出してメニューを手に取った。