第1章 紫の陽だまりを見た日
「ねぇ、ゆめちゃん……?」
とんっと肩に触れられた手に、私は思った以上に飛び上がってしまって自分でも驚いた。すみません、と謝る声はぼんさんの大きな声で掻き消された。
「ごめんごめん、急に触って……!」
予想以上の反応で私はますます戸惑ってしまった。謝らないと。私、今日体調悪いんですとか言い訳して。
「いえ、私の方こそ……」視界がぼやけて私はハッと息を飲んだ。「あ」
あとは、重力に沿って落ちた雫が床に零れて私は崩れるように膝をついた。すみません、拭きます。それは声にはならなかった。
「え……っと、泣いてる……?」
「ごめんなさい……」
私は袖で床を拭いたが、目から涙がどんどんと溢れてきて次には瞼をこすった。
「ごめんごめん」
ぼんさんは何も悪くないのに、そう言ってティッシュを持ってきてくれて手渡してくれた。私がティッシュを受け取ると、今度は鼻水まで出てきて本当に自分が嫌だった。
「とりあえず、ここ使って、ね?」
ぼんさんは私をリビングに連れ出してソファに座らせた。もう気持ちがぐしゃぐしゃになって私は促されるままだった。私はあまり見なかったが、辺りでどうしようとウロウロするぼんさんの足音だけが聞こえた。それから目の前の低いテーブルにお茶が出されて、これしかないんだよねと呟くように言ってくれたのが聞こえた。
それからぼんさんが何をしていたのか分からないが、私が落ち着くまでそっとして置いてくれた。だから私は思い切り泣くことが出来た。そっか。私こんなに泣きたかったんだな。