第1章 紫の陽だまりを見た日
結果、私は付き合っていた彼氏にフラれてしまった。
あの時食べていたハンバーグ。買い物に行って見かけるだけで涙が出てしまいそうだった。
それでも仕事をしなくてはと、いつも通り出勤して、帰ってきたら散々泣いて。
休みの日には思い出の品とやらを片っ端から片付けて、その度にまた泣いて。よくこの精神状態で仕事に行ってるなと思いながら、翌日にはドズル社へ向かった。
ほとんどが座りっぱなしの仕事だったから助かったけど。
「七崎さん」
数日後、名前を呼ばれてはっとした。見ると先輩が横に立っている。
「あ、すみません……なんでしたっけ?」
「最近大丈夫? ボーッとしてること多いみたいだけど」
「大丈夫です」
本当は大丈夫じゃないなんて言って、私情で心が苦しいなんて打ち明けることも出来なかった。きっと時間が解決するから。だから今は、仕事に打ち込みたかったのだ。
「ならよかったけど」と先輩は言ってダンボール箱を手渡してきた。「前に開発した、ゲーム内で絵が描けるやつ、改良したんだ。今日は手が空いているよね? ぼんさんに届けて欲しいんだけど……」
「ああ、分かりました」
私はエンジニアとはいえ、まだまだ下っ端である。機材の発明ではなく、機材の取り付けをもっぱら頼まれている方であった。私は機材の入ったダンボール箱を受け取った。
「ありがとう。いやぁ、車も運転出来る人もいると助かるねぇ」
「車……」
「七崎さん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
私は、パソコンへ視線を戻しながらぼんさんへ連絡を取る。この時間ならまだ返信は来ないだろうな、と今の仕事を片付けようとした時、意外にも早くメッセージが返ってきて驚いた。今からでもいいみたいだ。私は時間を提案し、スケジュール調整をする。
私はその時間に間に合うように区切りがいいところまで仕事を終わらせ、ぼんさんの自宅へ向かう準備をした。機材をパソコンに繋げるやり方はあらかた聞いて置いた。あとは出発だ。
時々過ぎる元彼氏の言葉に蓋をして。
私は機材を車に乗せた。