第2章 ハンバーグ記念
「こんばんは〜」
今日はぼんさん宅に訪問する日。こうしてプライベートでぼんさん宅に来るのは初めてだ。
「お〜、よく来たね」
と出迎えてくれたぼんさんは、特段変わった様子はなかった。良かった。妙に気合いを入れてオシャレ過ぎる格好とかしなくて。
「今日は、ご飯でも作ろうかなって思ってて」
「え、そうなの? 俺、何も買ってきてないよ」
「大丈夫です。材料は買ってきたので……あ」
と私は手にしている買い物袋を覗き込んで言葉を切る。
「どうしたの?」
「肝心のご飯の材料買ってくるの忘れました……」
最初からこんな失敗をしてしまうとは。張り切り過ぎると準備が疎かになってしまう私の短所を恨んだ。
「はははっ、いいよいいよ。俺そんなに食べなくてもいいし」
「私が作りたかったんです……」
と言ったところで袋の中から望む食べ物は出てくるはずがない。もう一回買いに行こうかとも思ったが、撮影の合間にこうして時間を作ってくれたぼんさんに申し訳ないなぁと思うと、買い物に行ってくるとも言いにくい。
「にしても、いつも頼りにしているゆめちゃんがうっかりすることあるんだね」
「うっ……私だって人間ですから……」
とぼんさんに目を向けた私は途中で言葉を失ってしまう。
少し首を傾けてこちらを見つめるぼんさん。この人、こんなに可愛いんだっけ。あ、私が惚れているからだと考えがそこまで到達した時に自分の顔に熱が出てくることが分かって慌ててぼんさんから視線を逸らした。
「と、とにかくあるものだけで何か作りますね」
「あるものだけで? なんかあったかなぁ……」
「そこで座って待っててくださいね!」
「はーい」
とリビングに向かったぼんさんを見送って私はなんとかキッチンに逃げ込むが、真っ赤になっただろう顔をぼんさんに見られたかどうかは分からない。とりあえず袋を置いて、私は冷蔵庫を開けた……が、何もない。食材らしきものがないのだ。あっても調味料とか、ご飯と一緒に食べる薬味とか副菜とかそういう類のものばかり。男性一人暮らしの生活を舐めてた。そういうものなのだ。
そうして私は野菜室も調べてみたが食材らしきものは見当たらず、諦めて配達でも頼もうかなと思い始めながら冷凍庫を開けた時、冷凍食品がいくつか入っているのを確認した。