第1章 紫の陽だまりを見た日
それから数日後。
あの病気から完治したスタッフさんたちがチラホラと出勤し始めた頃、ぼんさんから連絡があった。
原因不明でパソコンがフリーズしたとのことだ。
ありとあらゆる方法をメッセージでやり取りしていたのだが解決せず、私がぼんさんの家に訪問することとなった。嬉しいのに、会いたくないという複雑な心境のまま、私は上司に言われた通り、彼の自宅へ向かった。
「ゆめちゃん、久々だね〜」
出迎えてすぐのぼんさんからの一言はそれだった。私は小さく頭を下げる。
「お久しぶりです」
そうして中に入れて貰うと、パソコンは確かにフリーズしていた。とは言っても、フリーズするのは通信環境が必要な時だけだったので、もしかしてとWiFi機器を調べてみたところ、アップデートが始まっていて全ての通信を一時遮断しているだけだったと知った。
「あ〜、WiFiだったかぁ、ごめん、気づかなくて」
「いえ、故障じゃなくてよかったです」
それに、会いたかったんです、とは言えないまま。
お詫びにと、ぼんさんはインスタントコーヒーを出してくれた。大丈夫だと何度も言ったのだが、いいからいいからと言われてソファに腰を下ろした。
「最近どう? しばらく会ってなかったけどさ」
いつも通りに話し始めるぼんさんに、落ち着く声だなぁと私は思った。これくらいは誰でも思うよね? きっとそうだ。間違いない。
「最近はとても忙しくて……でも病欠だった人が出勤して来たので、もう少ししたら休めると思います」
ああ、まだ流行ってるんだよねぇ、あの病気とぼんさんは返し、前に一度体調を崩した時は本当にしんどかったという話をしてくれた。病気にはかかりたくないよな、なんて話しながら。
そうしてついつい話し込みながら、手元のコーヒーが半分くらいまで減った時、残っている仕事があると私はいつ切り出そうか悩んでいた。正直、ぼんさんと話していたいので、ここを離れたくなかった。
「それでさ」
いくらか話したあと、ぼんさんが改まった口調で切り出した。なんだろう、とぼんさんを見やると、真剣そうな眼差しでこちらを見据えていてドキリとした。