第1章 紫の陽だまりを見た日
そうしてさらに二ヶ月が経った後、私には特に何も進展はなく仕事を続ける日々であった。
といっても、元々エンジニアはそんなにしょっちゅう彼らの自宅に訪問することはなく、ほとんどがメッセージのやり取りだけで済むのだからおかしなことはないのだが。少しだけ、寂しい気持ちがあったのは本当だった。
私がぼんさんに恋心を抱いているのかもしれないということも。
確かめる方法もないまま過ごしていたある日、ドズル社に働くスタッフさんたちにあの世界を脅かした病気が今更流行り出した。次から次へと出社出来る人が少なくなり、症状が軽い人はまだリモートで仕事は進めてはくれるものの、体調不良の人たちもどんどんと増え、会社はガランとすることが多くなった。
一方の私は健康を体に身につけたくらい強かったらしく、病気にもかからず、出社も可能の数少ない動けるスタッフとなっていた。なので、現場に向かわなくてはいけない仕事も山のように私にシワ寄せされた。
ということで私は、ぼんさん担当のエンジニアではあったが、スタッフがいないとのことで他の実況者さんの自宅へ訪問することとなったのだ。一応何回かは会ったことはあるが、緊張しながらMENさんの自宅へ向かった。
彼はいつも鬼畜企画を撮影することで有名なゲーム実況者の一人であり、次にやる鬼畜企画のために、彼の所持しているパソコンに強化ソフトをダウンロードさせたらしい。しかし、まだ開発中というのもありトラブルが起き、開発者は病欠で出勤も難しいとのことで私が駆り出されたのだ。トラブルの原因とその解決方法はおおかた聞いては置いたが、私もそこまで頭がよくないので、解決するかどうかは分からないのだが。
MENさんの自宅へ訪れると、優しそうな目をした男性が出迎えてくれた。どうも、すみません、と小さな声で言いながら彼の配信部屋へ向かうと、パソコンが起動したまま、エラー表示が大量に出ているのが見えた。
「ああ、これは……」
「大丈夫っすかね?」
「一応やってみます」
私は会社から持ち込んだ機材を繋げてパソコンのエラー表示を削除していく。これには致命的なバグがあったらしい。私は聞いていたマニュアル通りに進めて通常動作が出来るようにする。