第8章 ぼんじゅうるウーパールーパー目線
小さな足音が、水槽を通り越して聞こえてきた。
俺の目の前に人間が見に来るのはよくあることだったが、選ばれるのはいつも若くて可愛い見た目をしたウーパールーパーだった。
それに比べて俺は、突然変異とやらで他の色とは違う紫色の体をしたウーパールーパー。せいぜい青だったらまだ珍しく美しかったのだが、俺の紫は模様が模様なだけに不気味だとか毒々しいだとか言って俺から目を逸らした。
そうして俺は歳を取り、誰にも相手にされないままMOB販売店に居座り続けていたある日、人間の女の子が真っ先にこちらを見てきたのはよく覚えている。
「わぁ……きれいな色!」
女の子はそう言った。ここにいる時間は長かったから、俺は人間の言葉がある程度分かったのだ。
「珍しいね、紫色のウーパールーパーなんて」
と女の子の母親らしき人がそう言った。見た瞬間タイプの女だなぁと思った。今目の前の女の子もその面影があったので、大人になったらあんな感じになるんだろうかと俺はぼんやりと考えた。
「ねぇねぇ、どうして一匹でいるの?」
女の子が早速訊いてきた。誰と考えなくても俺に聞いているのだということはよく分かってはいた。俺は紫という珍しい色なので、他のウーパールーパーとは違う水槽に一匹だけ放たれていたのだ。