第7章 ドズルクリーパー目線
「僕には名前がないんだ」
僕は構わず話を続けることにした。女の子の顔はますます輝くように見え、楽しそうに言葉をこう返してきた。
「じゃあ、私が名前をつけてあげる!」
「それって、僕の飼い主になるってこと?」
「え、私のところに来てくれるの?」
人間の子どもだから仕方ないのかもしれないが、言っている意味が分からない。名前をつけるということは、飼い主になるということではないのだろうか。
女の子は僕の思案には気付かずに両親を振り向いた。
「ねぇ、パパ、ママ、この子飼ってもいい?」
「えっ」
驚いたのは僕だけではなかった。女の子の両親も驚き、横にいる店員はもっと驚いた顔をして、六歳の子どもにクリーパーは……と言葉を詰まらせている。ここは空気を読んだ方がよかったのかもしれない。
「ねぇ、僕を飼うならさ」
「なぁに?」
「毎日蒸し風呂に入れなきゃいけないから、大変だよ?」
「ムシブロってなぁに?」
六歳の子どもなんだっけ。ちょっと難しい言葉だったかもしれない。
「うーん、サウナみたいな?」
実際はもっと違うんだけど、と思いながら僕がそう答えると、女の子はぱっと明るい顔になった。
「サウナなら、豚ちゃんが作ってたよ! お家に来たら一緒に連れてってあげる!」
「サウナ?」
「うん!」女の子は話した。「お願いしたら、ムシブロも作ってくれるかも!」
「そっかぁ……」
僕は困った。正直サウナというものは気になるのだが、僕がいいねと答えれば女の子はどうしても僕を飼いたいと駄々を捏ねるだろう。ここはクリーパーコーナーだ。僕は平気でも、他のクリーパーが爆発するかも分からない。
「ねぇねぇ、ドズルちゃんはどう?」
「え?」
僕の心境が分かるはずもない女の子が、さらに話続けた。僕はよく分からず女の子を見つめ返す。女の子は僕の質問にこう答えた。
「お名前だよ、お名前! ドズルって呼んでもいーい?」
「いいけど……それって」
「店員さん、この子、飼います」
僕がどういうことか理解しようとした時、女の子の後ろにいた父親がそう言った。
「で、ですが……」
店員はすぐには快諾しなかった。だが、女の子も両親も一歩も引く気配がない。それどころか女の子はこちらを振り向いて、にこりと笑った。
「よろしくね、ドズルクリーパーちゃん!」
こうして、僕の飼い主は六歳の人間の女の子になったのだ。