第1章 召喚
「審判?」
男が不安そうに尋ねると老人は笑った。
「審判と言っても難しくはありません。この水晶に手をかざしていただければなんの加護がついているのか分かります。ささ、コチラへどうぞ」
おずおずと前に出た男は水晶玉に手をかざした。すると赤く燃え上がった。それは天井まで届くほど大きな炎だった。
「素晴らしい!炎の神が着いておられる!」
褒められて少し嬉しいのか安心した顔をする男。続いて女性。彼女が手をかざすと水が溢れ出して床を冷たい水が覆った。
「素晴らしい!水の神が着いておられる!」
続いての男は植物が床から飛び出して壁を伝い緑を生やした。
「素晴らしい!自然の神が着いておられる!」
「ささ、次は貴方様の番でございます」
老人にそう勧められる。先程まで人が死んでいく所を見ていたのに、老人は何事も無かったように振舞っている。それがとても気持ち悪い。シロが言いなりになるところを見るとこの人たちが上司だろう。なぜ簡単に人を殺せるのだろう。
「大丈夫ですか?」
動かない私を見てシロが遠くから声をかけてくれた。返事を返す気分でもないのでそのまま逃げるように水晶の元へ行く。先にいた3人が私を見るが顔を逸らす。
手を伸ばすと何も起こらなかった。水晶玉の見た目は変わらない。
「これは…ハズレ者ですね」
老人は残念そうに言った。ハズレ者?なんだか嫌な予感がする。
「神の加護がある方々を城へご案内してください」
そう言って三人は老人達に連れていかれた。先程のシーンと重なった。まさか殺されるの?ちらっとシロを見ると顔を下げている。
『あの…私を殺すんですか?』
「殺す?とんでもございません!我々が召喚したのですから生きていくための支援は致します。何が欲しいですか?」
何が?そんなもの分かるはずがない。私は何も分からないし、何も持っていないのだから。
「なにかの職につきたいのなら援助します。貴族の地位が欲しいのなら与えます。ギルドのハンターとして働きたいなら訓練場の手続きも、田舎で暮らしたいなら土地も与えます。あなたは何が欲しいですか?」
笑っているのに目は暗く感情がない。さっさと済ませて3人の元へ行きたいようだ。彼らから感じるのは厄介者としての憎悪に満ちた目だけ。金さえ渡せばいいと思っているのだろう。そんな老人たちに吐き気がした。
