I'll always be with you【アイナナ千】
第20章 ファーストキッス!
私が19歳になってすぐの頃。
まだ、千さんと百くんが二人で暮らしていた時。
仕事帰りに二人の家に寄った。
その日は百くんが、飲み会に参加しているらしく、千さんが一人で作曲をしていた。
邪魔をしないように、話しかけずに二人分の料理を作った。
料理を作り終わり、千さんの視界にお邪魔する。
千さんはヘッドフォンを取ってくれる。
『出来たけど食べる?』
「ありがと。もらうけど、先に食べてて」
『うん、分かった』
今は集中しているようだった。
もう一度ヘッドフォンをし直し、壁に向かって、ギターを鳴らしていた。
いつもなら寂しいと思う。
今日は助かった。
初めて仕事で大きなミスをした。
仕事にも慣れてきたと思ってきたタイミングだった。
上司や同僚に迷惑をかけてしまった罪悪感と、ミスをしてしまった悔しさ。
だいぶ落ち込んでいたから、無理に笑わずに済む。
私は千さんを見てないことに安心して、ご飯を食べながら今日の出来事を思い出してポロポロと泣いてしまった。
そんな時だった。
急に千さんが振り返った。
「あれ、え、里那?」
『っう』
「泣いてるのか?」
『っ泣いてない!大丈夫だ、から...』
「僕の前でつよがるのはやめろ」
『っ...千さ、ん』
こちらに駆け寄り、そっと背中を撫でてくれる。
そんなに泣き虫な方じゃないんだけど、大人になった責任感とか、人に迷惑をかけるとか初めてで涙が止まらない。
「泣きたい時は泣けばいい。でも君は笑顔の方がいい」
優しい声が心の傷に余計にしみる。
「どうしたら、泣き止んでくれる?」
私も泣き止みたい。
だけど、一度決壊してしまった涙腺は、なかなか元には戻らない。
千さんは頬に伝う涙を丁寧に拭ってくれる。
そのまま頬に手を添える。
顔がゆっくり近づいてくる。
そっと唇を重ねた。
とてもスローモーションに感じた。
私は驚きで、涙がひっこむ。
「ふふっ、泣き止んだ?」
『え、』
「こうしたら泣き止んでくれるかと思って」
『び、びっくりしたよ、』
千さんは悪気のない顔で笑った。
私は違う理由でまた泣きそうになったが、泣いたらまたキスされるかもしれないと思って、無理やり笑った。
千さんはこうやって、他の女の人も慰めてきたの?
私はこんなやり方知らないや。