I'll always be with you【アイナナ千】
第19章 Re:member
私の体に異常はなかった。
トラウマ、PTSDによる発作的な呼吸困難による失神という診断だった。
医師からは、コンサートに行くのは辞めた方がいいと淡々と告げられた。
医師の診察が終わった後、千さんが病室に入ってきた。
心配そうな顔をして、ベット脇の椅子に腰掛けた。
「具合は大丈夫か、里那」
『うん、もう大丈夫だよ。』
「飲み物や軽く食べられそうなものは買ってきたから、ここに置いとくよ」
『ありがとう。何事もなければ、明日の朝には退院できるって』
「明日、また迎えに来るよ」
『迷惑かけちゃって、本当にごめんね』
「迷惑じゃない、大丈夫だ」
千さんは、私の頭を優しく撫でてくれる。
『...コンサートは大丈夫だった?』
「コンサートは無事に出来たよ。終わった後、親切なスタッフの人が教えてくれてね。焦って駆けつけたよ」
『そっか...疲れてるのに来てくれてありがとう』
千さんが私を心配して来てくれたのは嬉しいけど、心配かけちゃって申し訳ない気持ちが勝る。
「里那、僕は自分のことしか見えてなかった。自分しか考えてなかったんだ」
『そんなことない...千さんは大切な人に対して心を尽くせる人だよ』
「いや、里那の事は大丈夫だと、勝手に思い込んでいたんだ。大好きな兄が、生死を彷徨うような大怪我をした瞬間を目撃して、その兄が姿を消したんだ」
『...』
「大丈夫なわけがない、」
『私は...』
「こんなに深い傷を心に負っていたのに...僕が悪かった、ごめん」
『千さんのせいじゃない、ちがうよ!』
千さんが泣きそうな顔をしている。
泣いてほしくなくて、自分を責めてほしくなくて、千さんの頬に手を伸ばす。
「僕が君のお兄ちゃんになるよ」
え?
「里那の側にいて、守ってあげる」
『千さん、、』
千さんは、私に向けた顔の中で一番優しい顔をしていた。
ずっと優しく頭を撫でてくれた。
なんて、残酷で魅力的な言葉なんだろう。
兄になる。なんて
私は千さんの恋人になりたいのに。
でも、千さんの周りのたくさんの女の人と私は違うんだね。
彼女にはなれないけど、特別にはなれたみたい。
側にいれるんだね。
その日から、私は千さんの妹になった。