I'll always be with you【アイナナ千】
第19章 Re:member
お兄ちゃんが消えた。
退院後、割と直ぐのことだった。
姿を消した。
私は先日の会話が頭をよぎって、お兄ちゃんの考えてた事が理解った。
きっと、私がお兄ちゃんの居場所を知らないなら、お父さんも千さんも誰も知らないだろう。
私は自分の左手を見つめる。
千さんのところに行かなきゃ。
週末にお兄ちゃんの家に行くことにした。
コンコン...ドンっ!!!
扉が勢いよく開く。
「万!!」
『わ、』
「あ、ああ、里那か、、」
嬉しそうに出てきた千さんは、私だと分かった途端に落胆の表情へと変わった。
元々細い千さんは、更にやつれていた。
ゆっくりと部屋の中に戻っていく千さんの後を追うように、私も部屋に入る。
『千さん...』
「そうだ、里那は万の居場所を知ってるんじゃないか?」
千さんは振り返り私の肩を掴んで言った。
懇願するような必死な顔だった。
『知らないの。私は聞いてないし、お父さんに聞いても知らないって』
「嘘だろ」
『本当だよ!多分、お兄ちゃんは誰にも言わずに』
「嘘だ!里那と万は誰が見ても仲が良い兄妹だった。万だって、可愛い妹には居場所を伝えているんだろう!口封じされてるのか?」
千さんの手がグッと食い込み、肩に痛みが走る。
でも、肩以上に胸が張り裂けそうに痛かった。
『ごめんなさい。本当に知らない』
「言え。僕に脅されたと言えばいい。頼む、お願いだ、言ってくれ!!」
肩を大きく揺さぶられる。
私は本当にお兄ちゃんの居場所を知らないの。
千さんの力になれない...
『ぅ、...ごめん、ごめ、んっ、、ごめんなさい』
千さんはこんなに弱って、憔悴しているのに...
私には何も出来ない。
肩に置かれていた手が、力無く降りていく。
「一人にしてくれ」
私は何も言えず、家から出た。
深い哀しみに人目なんて気にならず、ぐしょぐしょの泣き顔のまま帰路につく。
大切な兄を救えず見失って、
大好きな人の力にもなれない。
私はとっても非力だ。
でも、唯一良かったこと。
千さんの手を離していたら、きっと一生会えなかっただろう。
それだけは合っていたと、確信できたこと。