I'll always be with you【アイナナ千】
第19章 Re:member
目を覚ましてから、お兄ちゃんの容態は順調に回復していった。
『お兄ちゃん具合はどう?』
「うん、大丈夫だよ。それよりお前学校はいいのか?」
『大丈夫!お兄ちゃんが早く退院してくれれば、また行けるから』
困ったように笑う、お兄ちゃん。
顔の傷は消えないみたいだが、目や脳の機能などは問題なく、安心した。
「なあ、千の様子はどうだ?」
『うーん...話してないから私もあんまりわからない』
「そうか」
『ずっと病室にいたから、周りがどうなってたかあんまり把握してないの。千さんが明らかに弱ってそうな姿は見たけど...あと、なんか、隣に知らないおじさんがいた気がする』
「知らないおじさん?」
『うん、お兄ちゃんは知ってるかもだけど...』
お兄ちゃんは自分が怪我をしていて、ベッドにいるのに、千さんの心配をしていた。
二人の仲の良さや関係性を、一番近くで見ていた自負がある。
お互いを大切に思って、唯一の相方だった。
お兄ちゃんが目を覚まして元気になれば、元通りになると信じて疑わなかった。
次の日の朝の出来事だった。
いつも通りお兄ちゃんの病室に行った。
「なあ、里那」
『ん、なあに?』
洗面の前でりんごの皮を剥いていたら呼ばれた。
「近くに来て」
『え?』
剥き途中の林檎を一旦置いて、ベッドに近寄った。
お兄ちゃんは真面目な表情をしていた。
「両手を出して」
『はい』
「こっちの手は僕、大神万里が繋いでる」
そう言って、私の右手をお兄ちゃんが握った。
「こっちの手は折笠千斗が繋いでる」
今度は左手を握られる。
「両方に引っ張られたとして、どっちの手についていく?」
『ええ?変なこと聞くね』
「...」
お兄ちゃんは真面目な表情のままだった。
真剣に答えてって、無言で伝えていた気がする。
『両方に引っ張られても、お兄ちゃんと千さんが手を繋いでるから、結局どっちに着いて行っても同じじゃない?』
「はは、そうきたか。じゃあ、別々の正反対に進もうとしてたら?里那は分身できないから、どっちかについていかなきゃいけないんだ」
ええ、どっちか、選べって?
両方の手をグッと握った。
どちらも離したくないよ。
でも、お兄ちゃんの問いには、ちゃんと答えないといけない気がした。
ただの兄妹の勘だけど。