第1章 過去、そして出逢いへ
いつもと同じ、何ら変わりない日常が続くものだと思ってた。
いつも通り家族皆で夕飯の食卓を囲んでたはずなのに……
『痛ッ…』
必死になって走っていた足も皮が剥け、少し血が滲んでいた…。
ところ構わず走って逃げて辿り着いた場所は知らない所。
子どもならもう寝静まっている時間だが周りにはまだちらほら人もいて、今の自分の姿が少し恥ずかしくてそっと側にあった薄暗い路地裏へ入って隠れた。
奥の方までゆっくり歩いて行くとハァッ…と大きく息を吐いてそっとしゃがみ込んだ。
自分の両膝を両腕で抱えるようにぎゅっ…と握りしめ、顔をそこに埋めるように覆い隠す。
だんだんと呼吸も整い、思考がクリアになってくると思い出されるのはさっきの惨劇と聞こえてきたお父さんとお母さんの声。
直感的にもうあの家には戻ってはいけないと脳に訴えてくる。
「嬢ちゃん、どうしたんだい?」
どうして…どうしてこうなっちゃったのかな…と頭の中でグルグル何度も考えているとふと、頭の上から声を掛けられた声にビクッ…と肩を揺らしてゆっくりと顔を上げる。
そこにはサングラスを掛けて、首にはマフラーを巻いたおじさんが立っていた。
「おっと、驚かせて悪かった。
おじさん見た目はこんなんだが、怖くはないぞ?
…俺は義爛。嬢ちゃん、お名前は?」
少しサングラスをずらしてニィッと
笑って見せる義爛。
『…ッ……』
まつ毛の長いまん丸な大きな瞳で見上げながら小さく呟く。
「か…。良い名だな。
ところでお父さんとお母さんは?
こんな小さな子が一人で出歩くような
時間じゃあないぜ?」
が怖がらないように目線を合わせて目の前にしゃがみ込み尋ねる義爛。
『おとうさんとおかあさんッ…いない。
おかあさんにはやくッ…にげて…って。
おとうさんがあわててわたしを
おうちからだして…
そしたら、おうちからすごいおとと…
おとうさんとおかあさんのっ……
くるしそうなさげびごえがッ……』
ぽつり、ぽつり…と呟くように言う。
その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
彼女の言葉であらかた理解した義爛。