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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編








それから


ひと月余りが過ぎた




あたしは相変わらず、ダラリと店の縁側に寝転んでぐうたらしている雅吉を見て


改めて何でもない日々の有り難さを噛み締めていた




雅吉「……なぁ、にの江」


にの江「なんだぃ、あんた」


雅吉「今日もいい天気だなぁ」


にの江「あぁ、そうだねぇ」


雅吉「……なぁ、にの江よぅ」


にの江「なんだぃ」


雅吉「…愛してるぜぃ」


にの江「………」




縁側に差し込む日差しに負けないくらい


優しく柔らかな微笑みを見せながら


こっ恥ずかしいことを昼間っから言いやがる亭主に


あたしはべえっと舌を出して言ってやった



にの江「んなこたぁ、とうの昔から知ってるょ!

あたしもだからねッ///」


雅吉「おぉ?なんでぇなんでぇ!今日はヤケに素直じゃねぇかにの江!

昼間っから誘ってやがんのか!?」


にの江「馬鹿言ってんじゃあなぃよッ!それこそ昼間っからッ!!(怒)」



あたしは嬉しそうに寝転がったまま、あたしに擦り寄る雅吉の頭を小突いた



雅吉「いてッ!なんでぇ、にの江!おめぇはヒトの頭をコツコツと!

俺の頭ぁ木魚じゃあねぇんでぃッ!」


にの江「そんな有り難いモンじゃあなぃけど似たようなもんだろ!

中身は空っぽなんだからッ!」


雅吉「なんだってぇ?

あはははっ!上手いこといぅなぁ!にの江よぅッ!(笑)」


にの江「……普通、ソコで笑うかぃ?(苦笑)」



何時もの日常に戻って、何時もの様に、やいのやいのと雅吉と小競り合いをしていたら

玄関から声がした



翔吾「ごめん下さいよ!もしっ!ごめん下さいっ!」


にの江「…あの声は、翔吾さんだね(笑)」



暇だからか、あたしの後をぽてぽて付いて来る雅吉を伴って玄関へ向かうと

玄関にはまた仲良く翔吾さんとお智ちゃんが並んで立っていた




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