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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編








恨み辛みも、喉元過ぎればなんとやら


何時までもそんなもんを引きずって生きていても、仕方のなぃもんで御座います





無残に命を奪われた、大倉さんのお兄さんと、遺された妻子は


本当に…本当に気の毒だとは思うけれど





どれだけ辛く悲しいことがあっても


前を向いて精一杯生きることが、亡くなった者に対する最大の供養だと





…そう、あたしゃあ、思うので御座います…







騒動のあった夜の数日後


潤之助さんが宿に大倉さんを訪ねてやってきた





お智ちゃんから事情を聞いたお殿様は、可愛いお智ちゃんの直々のお願いを断る筈もなく


早速書状を認めて下さり、それを潤之助さんに託して寄越したのだ





大倉さんは、潤之助さんから書状を受け取ると


改めてお礼がしたいから、今度是非皆様で紀州の自分の道場にいらして下さいと言い残し


そのまま急ぎ国元へと帰って行った









こうして


雅吉が帰って来てからこっち、ドタバタと忙しなかった宿に


何時もの、のんびりとした時間が戻り





そして


雅吉が紀州から持ち帰った「仇討ち」なんてぇきな臭い厄介事は


血を見ることもなく


無事、丸く収まったので御座います





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