• テキストサイズ

蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






雅吉「いやぁ、参ったなぁ」



部屋にあたしと二人きりになった雅吉は、自分の足を凝視して固まるあたしに笑いながら言った



雅吉「ひでぇ引っ掻き傷だろぅ?

野良猫の野郎をからかったら返り討ちにあってよぅ!」


にの江「……そうかぃ」



あたしはつっと立ち上がると薬箱から練り薬を出した



にの江「……放っておいて悪くしたらいけないからね……足をお出し」


雅吉「………ん」



雅吉はあたしに言われると素直に頷き、足をあたしの方に投げ出して座った



にの江「………」



あたしはその、潤之助さんの足に付いていた擦り傷と全く同じ擦り傷に、黙って塗り薬を塗った



雅吉「……ありがとょ」



薬を塗り終えたあたしを、雅吉がそっと抱き寄せる


優しい雅吉の腕に包まれて、強張っていた体の力が抜け行く

同時に、ずっと堪えていた涙が溢れ出した



にの江「………怖かった///」


雅吉「うん」


にの江「………怖かったんだから///」


雅吉「うん」


にの江「………ホントに、怖かっ…////」



ポロポロと涙を零しながら「怖かった」と繰り返すあたしの唇を

雅吉の暖かい唇が、そっと塞いだ



雅吉「……なぁ、にの江よぅ……これだけは覚えときな」



雅吉はあたしを胸にしっかりと抱き締めながら囁いた



雅吉「…お前が何時何処にいても、何をしててもょ…

…どんだけ遠くに居たとしても、何時でも俺が見守ってるってコトをなぁ…

…俺ぁ、例えこの身が死んで滅んでも、化けて出てでもお前を守ってみせるからよぅ…

………


……にの江……


………愛してるぜ」




/ 286ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp