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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






ぽかんと口を開けたまま固まる大倉さんの肩を、雅吉がポンと叩いた



雅吉「ま、そう言うわけだからょ

お前さん、その鬢と書状を手土産に国元にけぇりな!」


大倉「………はぁ」



お前さんは、狐に摘まれた様な顔をして頷いた



潤之助「……もう、何処でコレを拾ったのかは伺いませんが」



潤之助さんは手紙を懐に仕舞うと、雅吉を見て言った



潤之助「コレを落としたヤツは、ちゃんと無事に寺へ参ったので御座いましょうな?」


雅吉「ん~?行ったんじゃあねぇか?

ソイツを拾ったトコの近くの、お誂え向きの禅寺か何かにょ」


潤之助「……」



潤之助さんは小さくため息を付きながらふと視線を落とした

その視線が、さっきからあたしの目を釘付けにしている雅吉の足元に落ちる



潤之助「……」



潤之助さんは、ふっと顔を綻ばせて笑うとあたしを見た



潤之助「…では、もう夜も更けた故、拙者はコレにて失礼致します

…智子姫、拙者がお送り致します故、参りましょう」


お智「有り難う。でも、大丈夫です」



お智ちゃんはにっこり笑ってそう言うと、ひっくり返ったまま固まっている翔吾さんを優しく抱き起こした



お智「…翔吾さん、立てる?お家に帰りましょう?///」


翔吾「あぁ~……髪が……髪が降って来た……

……怖いぃ(泣)」


お智「大丈夫ょ、翔吾さん。私が付いてるから、ね?///」


翔吾「お智ちゅわぁ~ん(泣)」


お智「はぃ、よしよし♡///」



お智ちゃんは自分の胸に縋り付いて泣く翔吾さんの頭を、嬉しそうに撫でながら立ち上がると

振り向いてあたしを見た



お智「ではにの江姉さん、また、明日」


にの江「………あぁ……気を付けてお帰り」



お智ちゃんは軽く会釈すると、ぐすぐすと半ベソをかいている旦那を抱えて帰って行った




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