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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






潤之助「……にの江殿、歩けますか?」


にの江「えぇ、大丈……ぁっ///」



大丈夫と言い掛けて、潤之助さんの逞しい腕に抱きかかえられる



潤之助「…そこは大丈夫じゃないと言って下さい……拙者の面目が立ちませぬ」


にの江「…///」



俯いた先に、潤之助さんの足元が目に入る

その足元に、無数の擦り傷が付いていて、血が滲んでいた



にの江「潤之助さん、お怪我を…」


潤之助「あぁ、これですか(苦笑)」



潤之助さんは笑いながら自分の足を見ると言った



潤之助「此処に来る途中、葦の刈られた後の草原がありましてな

夢中で走っていたらそれで傷をつけてしまったらしい」


にの江「えっ?///」


潤之助「いや、大した傷では御座らんよ

…ほんの、掠り傷です」


にの江「……/////」



無数に付けられた潤之助さんの足の傷

そんなに必死で自分を助けに来てくれたのかと思ったら、ぼぅっと顔が熱くなった



潤之助「では、参りましょう、にの江殿……ん?」


にの江「?…どうかなさいましたか?」


潤之助「……」



潤之助さんはしばらく外の様子に耳を澄ましていたが

やがてくすりと笑うと「なんでも御座らん」と言って、生田さんの方を見た



潤之助「にの江殿を送り届けたら戻る故、此処で大人しく待っておれよ」


生田「………」



生田さんは、項垂れたまま、押し黙っている



潤之助「………後でな」



潤之助さんは念を押すようにそう言って

あたしを腕に抱えたまま、小屋を出た




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