• テキストサイズ

蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






生田「な……んだと…!?」


にの江「……ほら、おやり」



あたしは刀の先を自らの喉仏に当てた



潤之助「にのっ…にの江殿ッ!!(汗)」



それを見て、潤之助さんが焦った声を上げる


あたしは大丈夫だからとばかりに潤之助さんに目配せをして

生田さんの顔をじっと見詰めた



にの江「……本当に腐ってるなら……本当に武士を棄てるつもりなら……刀なんざとうに捨ててるはずさ

だけどあんたはソレを手放さなかった

刀は、武士の命だからね」


生田「………」


にの江「雅吉は……あの人はもう、武士じゃない……

……お殿様の賭事の道具にされる事に嫌気がさして、その道を棄てた男だ」


生田「…賭事…?」


潤之助「あの御前試合は、殿様方の賭事遊びだったのだよ…」



潤之助さんが、諭すように静かな口調で言った



潤之助「お前が殿様から受けた叱責は、言わば賭に負けた腹いせであろう……何とも、腹立たしい限りではあるが

どんな理不尽な仕打ちも涙を呑んで主君に尽くす……それが、家臣と言うものだ」


生田「………」



潤之助さんは、かつての友に、優しく寄り添うと

その手から刀を取り上げた



潤之助「……仏門にでも入るが良い……仇討ちの件は、拙者がなんとかケリをつけよう」


生田「……松本……俺は……」


潤之助「もう良い、生田……お前が悪い訳ではない」


生田「……くっ……」



泣き崩れる生田さんの肩を、軽く叩くと

潤之助さんは自分の羽織りを脱いであたしに掛けた




/ 286ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp