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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編





(生田!…じゃあやっぱり…)



名を明かされて驚きに固まるあたしを見て、生田が嬉しそうに眼を細めた



生田「ほぅ……俺の名を知っていたと見える……嬉しぃねぇ」


にの江「…ぉっ……お止めッ!!///」



男の手が着物の袂に入って来て、あたしは身を捩って懸命に抵抗した



生田「もう諦めな!」


にの江「…ぃやっ………いやぁあーッ!!////」
「にの江殿ッ!!」


にの江「!!!////」


いよいよ終わりかと、涙を振り乱して最後の抵抗を試みたあたしの耳に

頼もしくも凛々しい声が聞こえた



にの江「潤之助さんっ!!!////」


生田「松本貴様、何故ここが…」


潤之助「にの江殿を離せ生田!貴様の復讐はお門違いも良いところだぞっ!!」


生田「なにぃ!?」


潤之助「さぁ、にの江殿、此方に…」


生田「そうは行くかッ!!」



生田は床に置いてあった刀を手に取り、潤之助さんに向けた



潤之助「生田ッ!もう止さぬかッ!!」


生田「ウルサい黙れッ!この裏切り者めッ!!」


潤之助「生田ッ!!」


生田「この女は俺のモンだっ!!」


潤之助「貴様ッ!!」



潤之助さんの眼がギラリと光る



にの江「潤之助さんダメッ!殺しちゃあいけませんッ!!」


潤之助「にの江殿!しかし…」


にの江「ちょいとあんたッ!」



あたしは生田の刀を持った手を掴んだ



生田「な、何をするっ!貴様死にたいのかっ!」


にの江「殺れるもんなら殺ってごらんよッ!!」


生田「なにぃ!?」



あたしはドスを利かせてあたしを睨み付ける生田を、キッと睨み返した



にの江「無抵抗の女を斬り殺すなんざ、ただのヤクザだ!そんなヤツぁ武士の風上にも置けないょっ!!

あんたが其処まで腐ってるなら良いさ!武士の誇りゴトあたしを斬り捨てりゃ良い!!」




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