第2章 紀州仇討ち編
にの江「……はぁっ……はぁっ……
……んとに……何処、行きやがったんだか……」
あたしは闇雲に町を走り回って雅吉を探した
だけど、一向に何処に行ったのか所在が掴めなかった
にの江「……はぁ………はぁ………
……もぅ、家に帰ったのかねぇ…?」
息を整えようと深呼吸して、額の汗を拭う
にの江「…………ふぅ」
「おぃ、お前」
にの江「……?」
やっと息が落ち着いて、一度家に戻ろうと思っていたら、知らない男が声を掛けてきた
紫色の女物の着流しを肩に羽織って
懐に片腕を突っ込み、もう片腕に刀をぶらつかせて持っている
あたしを睨み付ける澱んだ目は、ギラギラと怪しい光を放っていた
男「おぃ、お前……にの江か」
にの江「……誰だぃ、あんたは……?」
男「俺が訊いてるんだ、女……貴様がにの江か」
にの江「………」
こいつが生田だ
何故だか解らないけれど、直感でそう思った
にの江「………だったら、なんだぃ」
男「ふっ……噂通りの跳ねっ返りらしぃなぁ、二宮のお嬢さんょ」
にの江「!!……何故、それを……」
昔の屋号を言われ、身構える
男「色々調べさせてもらったのよ……相葉……今は、雅吉とか名乗ってやがるあの野郎の身辺をなぁ……
……そうしたら、なんでも、元武家のお嬢様を嫁に貰ったって言うじゃねぇか……
……しかもこれが、かなりの別嬪だってぇ話だ……」
にの江「………」
ジリジリとにじり寄る男
あたしは男を睨みながら後退った
男「…いや、しかし……こいつは思った以上の別嬪だ……
……自ら剣の道を捨てた野郎には、勿体ねぇ」
男が、あたしを見据えたまま、べろりと舌なめずりをした
(ちくしょう……何て情けなぃんだぃ、あたしは……)
薄暗くなった人気のない通りで
あたしは声も上げる事が出来ずに、とうとうどん詰まりに追い込まれてしまった