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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






娘の時分


どれだけこんな瞬間を夢に見ただろう




息も出来ぬ程に抱き締められたいと


どれだけ願ったことだろう




だけどそれは


…昔の夢





にの江「…じゅ、潤之助、さん…////」



きつく抱き締められた体を捩ると、潤之助さんの体がピクリと動いた



潤之助「…………ご無礼を……赦して下さい……にの江殿……拙者は……」


にの江「……潤之助さん……」


潤之助「……御免ッ!」


にの江「あっ…///」



潤之助さんは、何かを言いかけて口を噤むと

御免と言い捨てて、あたしの顔を見もせずに

その場を立ち去って行った




あたしの胸に、ありありと


甘く切ない痛みと疼きを残して…




にの江「…………人生ってヤツは………残酷だねぇ」



あたしは何時の間にかに溢れていた涙を拭って、立ち上がった



にの江「それにしても、雅吉のやつ何処をほっつき歩いていやがるんだろぅね」



外を見ると、うっすらと夕暮れて来て

お天道様が橙色に色付いて、西の空に傾いている



にの江「………」



頭の中を“復讐”の二文字が浮かんで消える



にの江「……何処に、居やがるんだぃ……もう、日が暮れるってのに……」



心臓が、煩いくらいにドクドクと脈打つ


“あやつは雅吉殿を道連れに死ぬ気やもしれぬ”


潤之助さんの台詞が蘇って、心臓に突き刺さる



にの江「…………雅吉…………雅吉ッ///」



気がついた時には

あたしは行き先も解らずに


夕暮れ始めた町に駆け出していた




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