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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






にの江「…人払いが必要なお話なら、奥です伺いましょぅ」



あたしは、翔吾さんとお智ちゃんの姿がすっかり見えなくなると、潤之助さんを見た

潤之助さんはそれでも暫く考え込むように難しい顔をして、お智ちゃん達が帰って行った方をじっと見据えていた



にの江「……潤之助さん?」


潤之助「…にの江殿を巻き込む訳には参らぬ……拙者も雅吉殿がご在宅の折にまた改めて…」


にの江「仇討ちの件じゃあないんですかぃ?」


潤之助「!!!」



仇討ちと聞いて、潤之助さんが弾かれた様に振り向いた



にの江「…やはり、そうなのですね?」


潤之助「……いや、そうでは無いが……仇討ちとは、一体……」


にの江「それこそ、大きな声では申せませんょ」



あたしは奥を指し示すと、潤之助さんを促した



にの江「さ、どうぞ……お上がり下さいまし」


潤之助「…………お邪魔致す」



潤之助さんは眉間に深い皺を寄せて草履を脱ぐと、あたしの後に続いて奥の間へ向かった









潤之助「……………なる程、そう言う訳ですか」



あたしは潤之助さんに、昨夜雅吉から聞いた話を所々端折って話した



潤之助「つまりは、生田がその大倉とか言う方の兄上を斬ったのが発端だと」


にの江「えぇ。

でも、雅吉も首を捻っておりました

…何故、立派な武士だった生田さんが、あんなに落ちぶれて荒んでしまったのか、と…」


潤之助「………」



潤之助さんは、凛々しい眉をググッと寄せて腕組みをした



潤之助「……御前試合の裏の話が真実なら、納得が行きます」


にの江「え?」


潤之助「…生田はその御前試合で雅吉殿に負けた後、主君から言われ様の無いような叱責を受け

国元に戻され、役目も与えられずに捨て置かれたらしいのです」




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