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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編








にの江「……仇討ちだって?」


雅吉「あぁ、そうなんだょ」



久しぶりに雅吉の体温に包まれた寝床で、雅吉の腕枕に甘えながら

あたしは雅吉が紀州に何をしに行ったのか

大倉さんは一体何をしに江戸にやって来たのかを訊いた


あたしにそれを問われた雅吉は、ちょいと考えて込んでから


「忠義のヤツは、兄貴の仇討ちの為に来たんだょ」


と言った





にの江「そもそも、あの大倉さんって人とあんたは、どう言う関係なんだぃ?」


雅吉「ん~?………うん」



雅吉は、何だか言いにくそうな顔をすると

あたしが枕にしている手で、あたしの首筋を撫でた



にの江「…ん///」


雅吉「色っぽぃ声出すなぃ、にの江

明日起きれなくしちまぅぜ?」


にの江「もぅ………ばか////」


雅吉「はははっ」



雅吉は笑いながら起き上がると、着物を肩に掛けた



雅吉「……アイツとは道場が一緒でよ……俺が剣術の指南をしてやってた、可愛い後輩なんだょ」


にの江「……そう」



雅吉が、自らの口で自分の過去の話をするのは

それが初めてだった


あたしはちょっと体を起こすと、胡座を掻いている雅吉の膝に頭を乗せた

雅吉はそんなあたしを見てにっこり笑うと

優しくあたしの頭を撫でながら話を続けた



雅吉「…そんでなぁ…

…俺がチャンバラ家業を辞めた後も、忠義はずっとこっちで剣の修行をしてたんだがな

何でも、故郷の紀州で道場を開くってんで、国元に帰ったって聞いてよ…

…こらぁ一つ、おめでとうの一言でも言ってやらなきゃなんねぇと思ってよ…

それで、紀州へ行ったてぇ訳なんだ」


にの江「……そぅだったのかぃ」




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