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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編







にの江「で?大倉さんだっけ?

具合はどうなんだぃ?」



半月ぶりの我が家での夕げを、物凄い勢いで「うめぇうめぇ」なんて言って掻っ込んでる雅吉に声を掛けると

雅吉は口いっぱいに飯を頬張ったまま米粒を吹き飛ばして言った



雅吉「おぉ!もうらいぶひひみへぇらっ!!」


にの江「きったないね!飲み込んでからお話しょッ!!」


雅吉「ふぉんなこほいっへも、ひのへよぅッ!」


にの江「だから、飲み込んでからお話しったら!」



あたしは手拭いで汚れた雅吉の口の周りを乱暴に拭いた



雅吉「むぐぐ……こらにの江!もぅちっと優しく拭いてくれゃ!」


にの江「ウルサいね!拭いて貰えるだけでも有り難いと思いなッ!」


雅吉「へへへっ……やっぱ家は良いなぁ」



雅吉はあたしにどやされながら、何故か嬉しそうに笑った



にの江「なんだぃ、気持ち悪ぃね!」


雅吉「気持ち悪りぃだとぉ?」



雅吉はニヤリと笑うと、手拭いを持ったあたしの手を引いて抱き寄せた



にの江「ちょ、ちょいとお止めッ!まだ夕げが済んでなぃだろッ!///」


雅吉「…飯しぁ後だ……亭主相手に気持ち悪りぃなんざ言いやがって……

……こいつぁ、嫌って程気持ち良くしてやんねぇと気が済まねぇ」


にの江「ば、馬鹿をお言いでな…ッ/////」



文句を言っている途中で唇を吸われて、言葉が続かない



雅吉「……すまなかったな、にの江……長いこと留守にしてょ」


にの江「…………馬鹿////」


雅吉「へへっ……本当に俺ぁ馬鹿だよなぁ、こんな良い女を半月も放っておくなんてよぅ(笑)」


にの江「……………ばぁか/////」



あたしは悪態をつきながら、雅吉の胸に顔を押し付けて

半月ぶりの亭主の匂いを、胸一杯に吸い込んだ




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