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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第2章 紀州仇討ち編






にの江「お智ちゃん、用事が済んだらお戻り?

帰りが遅いと翔吾さんが心配するょ?」



あたしは、それとなく大倉さんに釘を刺すように言った



にの江「祝言をあげたばかりの若おかみが、あんまり余所で油を売るもんじゃなぃよ」


大倉「わ、若おかみ…」



“若おかみ”と聞いて、大倉さんの顔が俄かに曇る

でも、そんな大倉さんの様子には一向に気付かないお智ちゃんは、恥ずかしそうにもじもじしながら言った



お智「はぃ、では、私はこれで…////」



お智ちゃんは色気たっぷりに小腰を振って玄関の戸へ向かうと

振り向いてちょこんと頭を下げた



お智「お邪魔致しました、にの江姉さん」


にの江「はぃよ。気を付けてお帰りね」



お智ちゃんはにっこり微笑むと今度は雅吉の方を見た



お智「あの、雅吉さん」


雅吉「なんでぃお智ちゃん」



雅吉はなんだかニヤニヤ笑いながら壁に寄りかかって、ぽりぽりと首の辺りを掻いた



お智「翔吾さんが会いたがっておりましたから、折を見てうちにも寄って下さいましね?////」


雅吉「おぅ、その内きっと邪魔するぜぃ!」


お智「はい。

…では、其方のお侍様も、お大事になさって下さいまし」


大倉「………はい」



お智ちゃんはもう一度軽く頭を下げると

足取りも軽く、翔吾さんの待つ薬種問屋へ帰って行った




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