第1章 純情恋物語編
若様は、あたしに散々ぼんくら呼ばわりされて、ふて腐れた
若様「……ぼんくらぼんくら言うな……ぼくは、ぼんくらじゃなぃ」
にの江「いいや、ぼんくらだね!それに比べて智子姫の凜たる事!」
あたしは若様を掴んだ手を乱暴に離した
にの江「自分の身を呈して惚れた男を守るなんざ、そうそう出来るもんじゃないょ!
あの時の凛とした姫の姿、アンタにも拝ませてやりたかったよ!
いっそ、姫様の爪の垢でも煎じて飲みゃあ良いんだ!この、ぼんくらがっ!!」
若様「うぅ、ううぅ…ぼくは、ぼくは…ぼくは、ぼんくらじゃないぞ…」
良い歳をして、情けない顔で鼻をすする若様
あたしは、腕組みをすると、更に若様に言ってやった
にの江「悔しいかぃ?
だったら、あたしがあの時縁組みを断らなきゃ良かったって思うような、一端の男になってご覧よ!」
若様「……なったら、ぼくの側室になってくれるのか?」
にの江「何を…」
雅吉「そいつは、無理だな」
あたしが何を言ってるんだ馬鹿をお言いでないよと言おうとしたら
雅吉の声がソレを遮った
若様「Σな、何者じゃっ!?」
雅吉「ん~?俺かぃ?俺ぁにの江の亭主の雅吉ってモンだょ」
若様「て、亭主じゃと!?」
雅吉「そ、だからにの江は何処にもやらねぇよ」
雅吉はゆらりと襖の陰から姿を現した
若様「ちょっと待て、そち、雅吉と申したか?……雅吉、雅吉……なんだか聞いた事があるような……」
雅吉「そうかぃ?その昔は、人斬り雅之進なんて物騒な通り名が付いてたけどなぁ」
若様「Σひひひひ人斬りっ!?」
雅吉「誤解してくれんなょ、俺ぁ人様のお命を奪ったコトはタダの一度もねぇ」
雅吉は剣の鞘で頭をゴリゴリ掻きながら、片手で襖の縁を掴んだ
雅吉「人の噂ってのは怖いもんでねぇ
ソイツに妬み恨みがくっ付いちまったら、もうどうしようもねぇ
やってもいねぇコトをやったと言われてょ
白いモンも黒くなっちまぅんだからょ」