第1章 純情恋物語編
あたしが着物の袖でソイツを拭うと
潤之助さんも同じ様に瞳を潤ませて言った
潤之助「……済まないコトをしたと……拙者も……拙者とて、今でも……
………」
潤之助さんは、何かを言い掛けて
口を噤んだ
あたしは、ギュッとへの字に結ばれた潤之助さんの口元を見詰めながら言った
にの江「……昔ね、あたしがあの馬鹿を拾って……それでうちに居候してすっかり居着ちまった時にね……
……あの馬鹿が、面倒くせぇから、一緒になろうやなんて言いやがったんですよ」
潤之助「……」
潤之助さんは、黙って相変わらず難しい顔をして俯いていた
あたしは、そんな潤之助さんを見つめ返しながら話を続けた
にの江「あたしは、自分には忘れられない初恋の人が居るから一緒にはなれない
どうしたってその想いを忘れるコトが出来ないから…って、言ったんですょ
そしたらねぇ、あの馬鹿、あたしに言ったんですよ」
潤之助「……なんと?」
難しい顔で俯いていた潤之助さんが、顔を上げる
あたしはカラカラと明るく笑いながら言った
にの江「恋した気持ちを忘れようとするなんざ、阿呆のすることだって!」
潤之助「……」
食い入るような潤之助さんの視線を感じながら、あたしは話を続けた
にの江「全く、馬鹿に阿呆呼ばわりされたんじゃ、たまったもんじゃあ御座いませんからね
それこそ余計なお世話だこの馬鹿がって言ってやったんですょ
そしたらねぇうちの馬鹿、何て言いやがったと思います?」
潤之助「……なんと、申されたのですか」
あたしは、にっこり笑うと
亭主がくれた戯れ言を、潤之助さんに教えた
にの江「……誰のことを恋しく想っていようが、お前はお前だ
俺はそのまんまのお前を、愛してるぜ……って」