• テキストサイズ

蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第6章 盗賊始末騒動編


.





─更に時が進んで、その日の夜更け─





蜩の宿の裏口辺りに、六つ程の不審な人影が…





お頭「………万事、手筈通りなんだろうなぁ」


盗賊「へい、お頭

夕刻前に宿屋の女将と薬種問屋の女将が、雅之進の様子を見にか、一旦大名んとこに出掛けておりやしたが、日が暮れてから戻りやして…

…で、今は二人して奥座敷に布団を並べて呑気に夢の中でさぁ」


お頭「雅之進の野郎はどうしてる」


盗賊「大名んとこへ行ったきり、出て来た気配は御座いやせん」


お頭「……くくくく……呑気なもんだなぁ、人斬り雅之進も……

己の女房が手込めにされて殺されるとも知らずに……


………よし、お前ぇら、行くぜッ」


盗賊たち「「「へいっ!!」」」




─ガタガタッ…



夜の闇に紛れてお宿に忍び込む盗賊たち

そして、とうとう奥座敷の前へ



襖を開けると、二つ並んだ布団に、それぞれ二つの人の気配があった




盗賊「………へっへっへ……良く寝てやがる………」


お頭「おぃ、先ずぁ俺が味見をしてからだ、解ってんだろうな」


盗賊「解ってやすって……でも、せっかく二人も居るんでやんすから、どっちかは俺たちに…」






盗賊たちが、いよいよ美人女将を頂こう前に色めき立ち始めたその時

盗賊たちが入って来た襖の向こうから声がして…




「どっちも食うのはぁ止した方が良いと思うぜぇ

……ちょいと筋張ってて、腹ぁ下しかねねぇからなぁ(笑)」


お頭「だっ、誰だッ!?」


雅吉「……誰って、この宿の主人だぜぃ

おっと

主人なんて言ったらにの江の奴に怒られっちまうかなぁ(笑)」




盗賊たちが一斉に声のした方を振り向くと

すっかり見事な侍姿になった雅吉が、腰の物に手を掛け、間延びした台詞とは裏腹の鋭い眼孔で盗賊たちを見据えていた




.
/ 286ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp