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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第6章 盗賊始末騒動編


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お智「……時に、にの江姉さん

雅吉さんは、武士にお戻りになられる事を決められたのですか?」


にの江「ん〜?」




居間に戻ってお智ちゃんに粥を出した後

同じ卓袱台の前に座ってお茶を啜っていたら


粥を雀の涙ほどずつちびちびと口に運びながら

お智ちゃんがちょっと遠慮がちにそう訊いて来た


あたしはお茶を啜ったまま、わざと間の抜けた返事をした



それを

お智ちゃんは、自分の声が小さすぎて聞こえなかったのだと思ったらしい


粥を卓袱台の上に置くと、姿勢を正してもう一度同じことを訊いて来た




お智「雅吉さんは、武士にお戻りになられるのですか?」


にの江「ああ、その話しかい……まあ、そうみたいだねぇ」




何となくはぐらかす様にあたしがそう返事をすると

お智ちゃんは、相変わらず背筋を伸ばしてきっちり正座をしたまま、更に訊ねた




お智「なにやら、立派な大小をお持ちでしたが、あの品は何処から用立てなさったのですか?」


にの江「何処って…」




流石は大名家の姫君

チラッと見ただけだったろうに、雅吉が携えていた大小が、家宝と呼ばれる程の品だと見抜いたのだろう


そんな大層な品をすぐさま用立てしたのを不信に思っているのか

お智ちゃんは、何だか探る様な目つきであたしを見ていた




にの江「……別に……家のその辺にあったのを、適当に見繕っただけだょ」


お智「………」


にの江「………」




適当に誤魔化すあたしを見て、ちょっと眉を寄せた後

しばらく黙ってなにやら考えている風にしていたお智ちゃんが、徐に顔を上げて言った




お智「……あの大小は、もしや……にの江姉さんの、お父上の形見の品では御座いませぬか?」




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