第6章 盗賊始末騒動編
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雅吉「んじゃあ、俺ぁ色々手筈があるんでもう行くぜぃ
…髷も、きっちり結わないとなんねぇしなぁ(笑)」
にの江「………」
お智ちゃんが家出(笑)して来た日の翌日
昼飯を家でたらふく食った雅吉が、楊枝をくわえてしぃーしぃーやりながら、家宝の大小を腰に差して言った
ずっと神棚に仕舞われて、もう二度と日の目を見ないであろうと思っていた
…嘗て、大好きだった父が腰に携えていたソレが雅吉の腰に収まるのが嬉しくて、つい、顔が緩む
そんな自分が、あたしは何だかこっぱずかしくて
わざと興味なさげに小言を言ってやった
にの江「ちょいとお前さん
どうだって良いけど、その大小は我が家の家宝なんですからね
あんまりぞんざいに扱わないどくれよ」
雅吉「ああ〜?」(←懐に突っ込んだ手で胸元をぽりぽり掻いている)
にの江「…………」
(……全く……本当にこの人は武士に返り咲く気があるのかしらね(苦笑))
今から身形を整えて武家姿になろうって人には到底見えないその姿に
さっきとは違う笑みが込み上げる
(……でも……この人は、これで良いんだよね……)
そんな、片意地を張らない、気の抜けた姿に惚れちまったんだから、仕方無いなんて
とてもじゃないけど雅吉には聞かせられない事を思いながら
あたしは空いた皿を乱暴に盆の上に乗せた
にの江「もう、良いから早くそのみっともないナリをマトモな武家姿に直しといで」
雅吉「へぃへぃ………んじゃ、ちょっくら行ってくらぁ」
にの江「………行ってらっしゃい」
あたしに急かされてぬるっと立ち上がる雅吉の姿を見て
この遊び人の姿も見納めかと、何とも言えない気持ちになる
そんなあたしの心情を知ってか知らずか
雅吉は、気楽な着流し姿ともおさらばだなぁ、なんてブツブツ言いながら、ふらっと家を出て行った
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