第5章 神隠し騒動編
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にの江「……本当に腕が鈍っちまってたら、その程度の怪我じゃ済まなかったんじゃないのかい」
着替えを持って雅吉の隣に座ったあたしがそう言うと
雅吉は情けない顔のまま笑ってあたしを見た
雅吉「いやぁ、あの程度の打ち込みをかわせない様じゃどうしようも無いさ
…この傷が、俺の腕が廃れちまってるってぇ証拠さね(苦笑)」
そう言うと雅吉は、悔しそうに眉をひそめて
また、包帯に視線を落とした
にの江「………」
その昔
『人斬り雅之進』なんて通り名が付くほどに、剣の道で名を馳せた誇りが
きっと、雅吉にはあるのだろう
だから雅吉は
大した怪我ではないにしろ、用心棒風情に一太刀浴びさせられた事が悔しかったのに違いなかった
そうは言っても
剣の道から遠退いて尚、剣を生業にしている輩を相手にしてこの程度の怪我で済んだのは
やはり、雅吉が剣豪と唱われる程に剣の道を極めたからに他ならなかっただろう
…それでも、怪我をしてしまった自分を口惜しく想うのは
やはり、雅吉が本当の意味では未だに『武士』だからだと言えるのかも知れない
(やっぱり、剣を棄てて遊び人になっても
武士の志は、そうおいそれとは忘れられないものなんだねぇ…)
あたしはそんな事を思いながら、雅吉の着物に手をかけた
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