第4章 禅寺人斬り騒動編
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にの江「…………そうかい」
あたしは、雅吉と同じように声を潜めて相槌をうつと
子供らを見たまま腕組みをした
雅吉「ああ
表沙汰にはしてねぇみてぇだがよぅ
一昨日の夜、一番年若い百姓出の側室が自分が産んだ若君と一緒に屋敷から居なくなったらしい
んで、その若君の名前が…」
にの江「…侑李若丸…」
雅吉は、あたしがそう呟く様に言うと
黙って頷いて、話を続けた
雅吉「んでょ
その側室付きの腰元の話によるとなぁ
侑李若丸の母親の側室は、百姓出じゃぁあったが、大層な器量良しで殿様のお気に入りだったらしい
それで、競い相手の側室どもから命を狙われる事がしばしばあって
…このままでは若君のお命が危ない
いっそ、実家へ戻って百姓として暮らした方が若君は幸せに違いない
って、漏らしてたって話だ」
にの江「…それで、お屋敷を抜け出して実家へ戻る所を…」
雅吉「……実家の場所も調べが付いてるぜぃ」
雅吉は、子供らから視線をあたしに向けた
雅吉「……無惨に命を奪われた側室さんの最後の望みだ
叶えてやらねぇ訳にゃあ行かねえだろぅ」
にの江「……………そうだね」
あたしは
どうせなら、うちで引き取っても良いんじゃないかって台詞を飲み込んで
楽しそうに恋太郎ちゃんと一緒にお菓子を頬張る侑李ちゃんを見ながら
小さく頷いた
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