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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


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あたしは取り敢えず、すやすやと夢の中の恋太郎ちゃんを雅吉に預けて、玄関先へ向かった


すると、翔吾さんの幼なじみで飛脚をしている信吾さんが

ニコニコと愛想良く笑いながら立っていた



にの江「おや、信吾さんじゃないかぃ、あたしに文だって?」

信吾「へぃ!コレで御座んす!」



信吾さんは、あたしに文を手渡すと、毎度おおきにとでっかい声を張り上げて店を出て行った



にの江「わざわざ飛脚を遣わせて寄越すなんて……一体誰からの文かしらねぇ?」



ブツブツと独り言を呟いて居間に戻りながら

あたしは文を解いた



にの江「!!……これは……」

雅吉「ん?なんだぃにの江、誰からの文だったんでぃ?」

にの江「…………待ち人を拐かしたお偉いさんからの文だょ」

雅吉「あぁ?」



文を手に、難しい顔をして立ち尽くすあたしの手元を、雅吉が恋太郎ちゃんを抱いたまま覗き込む



雅吉「うぅ〜ん…………………………なんて書いてあるんだか、さっぱりだな!

にの江、お前声出して読んどくれぃ!!」

にの江「…全く、最初から読めないのは解ってんだから、わざわざ覗き込むんじゃないょ(苦笑)」



あたしは苦笑いをすると、文を読み上げた



にの江「“智子姫は、我等が手にあり。

御子を我等に渡すなら、智子姫は、町場において暮らす事を許される。

なれど、御子を渡さぬ時は、智子姫にしかるべき婿を迎え二度と町場に戻る事はないであろう。

御子か智子姫か、選ぶが良い。”


…だ、そうだょ。」



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